掲示を指差しているのが森岡先生です
聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院(看護師)にて勤務。東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻にて公衆衛生学修士(MPH)取得、同社会医学専攻にて医学博士取得。日本看護協会医療政策部等での勤務を経て、2017年より現職。
今回は、私が取り組んでいる医療ビッグデータを用いた看護の質の可視化に関する研究について紹介します。
“ビッグデータ”
―昨今のAIブームの中で、よく耳にする言葉かと思います。医療・看護に関連する所謂“医療ビッグデータ”(データサイエンス業界からすると、ビッグとまでは言えないというご意見もあるようですが)の活用については、2,3年前から病院管理系の学会や看護系学会の学術集会においてもシンポジウムが企画されるなど、注目を集めています。一言で医療ビッグデータといっても様々な種類があり、診療報酬明細のレセプトデータ、DPC
/PDPS制度対象病院のDPCデータ、介護報酬明細の介護レセプトデータ、その他にも、既存の統計調査や厚生労働省が公表しているデータベースなど多岐にわたります。
これらのデータを用いた医療の質の可視化が進んでいる一方で、看護分野での活用はまだまだ限られており、発展途上と言えます。
私は、このような医療ビッグデータを用いて、看護の質を客観的なエビデンスとして可視化することを目的とした研究を行なっています。そもそも、何故看護の質をこのようなデータを用いて明らかにしようと思ったか…その原点は、医療・看護政策の視点から客観的に示す看護の質のエビデンスの重要性を痛感した経験が大きいように思います。
大学院修士課程で医療制度全般から看護を見つめ直した時、良い看護を届けるための仕組み作り=制度・政策に興味を持ちました。卒業後、日本看護協会で医療制度や診療報酬改定に携わっていましたが、その当時、看護配置基準の要件緩和に関する厳しい折衝の中で、手厚い看護配置や良好な勤務環境が患者アウトカムにいかに貢献しているか、を示したくても国内データでは客観的にそれを示すエビデンスが十分とは言えず忸怩たる思いをしました。また、博士課程在籍時に世界保健機関(WHO)本部のHealth
Workforceの部署でインターンとして勤務した際には、同じく看護師である上司は、各国が看護人材教育・確保の戦略を推し進められるように支援するためには、臨床看護師・研究者が一丸となって、看護活動がuniversal
health
coverageにどのように貢献しているかをエビデンスとして見せていくことの重要性を何度もおっしゃり、とても印象に残っています。
このように、客観的に看護を可視化して、少しでも政策に結びつくことを目指して、これまでに、既存の統計データや公表データを用いた研究を進めていきました。例えば、看護職の地理的分布に関する研究では、診療報酬で7対1看護が導入されたことによる看護師の分布への影響を検証しました1,2)。また、地域での訪問看護の重要性に視点を当て、24時間訪問診療・訪問看護体制の整備が自宅死亡割合に関連していること3)、その為にも研修体制を整備して人材を確保していくことの重要性を示しました4,5)。また、最近では、DPCデータやレセプトデータを用いて急性期病院〜長期療養施設までの認知症ケアの質の評価6,7)に取り組んでいます。
まだまだ研究者としては未熟でスタートラインに立ったばかりですが、より良い看護が提供できる仕組み作りについて、エビデンスの構築という立場から貢献していけるよう、今後もこのような研究に取り組んでいきたいと思っています。